わんるーむラプソティー

日常ハーフフィクションノベル

焼いた肉だけあればいい。

肉を焼いて食べるという行為は贅沢である。


熱々のフライパンと肉とが
触れあう事によって生まれるワイルドな音色と薫り

薄紅色からこんがりとした色へのグラデーション

トングでつつけば溢れる肉汁

もし、あれを口に運んだのなら
旨味のある雫はアゴを動かすたびに
口いっぱいに広がり、やがてそれは、

美味いものを食べているという感動となって
我が身を包むのだろう

ああ、なんて素晴らしい。




「おお!今日はお肉なんだねー!」



はっと我に返ると、
テレビの前でくつろいでいたはずの同居人が背後からフライパンをのぞきこんでいた。

肉を賛美するのに夢中で存在にまったく気づかなかった。

「でも、鶏肉なんだね」

焼いてよし、煮てよし、揚げてよし、蒸してよし、お肉のなかでも一番使い勝手がいい

主夫の頼れる食材に対してこのいいよう
まったく失礼なやつだ。

「鶏肉だってりっぱなお肉ですぞ」

「まぁ、いいか。それよりシュフ」

「シェフみたいにしていうな。」

鶏肉をひっくり返しつつ、ツッこむ
パリパリに焼けていてとても良い感じだ

「今日の晩御飯ってこれだけ?」

「ごはんもあるよ」

蒸し焼きにするために蓋をして、
タイマーを、適当にセットしつつ応える

「サラダか付け合わせ」

「沢庵ならある。」

「味噌汁は?」

「インスタントはある」

「……」

「……」

二人の間に、焼音のみが流れる。

「味付けは?」

「エ●ラ焼肉のタレ♪」

「黄金の足!!」

見事に決まる臀部への蹴り
それにしてもコイツ、ノリノリである

「手抜きかっ!」

とうとう、バレてしまった…。

肉を焼くという行為は
美味であるのに手間がかからないのである。

五感に幸せだけでなく、時間までくれるなんて、本当に素晴らしい。グリル万歳。

「野菜も食べたい」 

そんな自分の考えをしるよしもなく、
我が家の腹ペコクイーンはそんなことをおっしゃる。

「面倒くさいので、これで勘弁してください。」

だが、こちらも譲れないものがある
タイマーが鳴るまでの辛抱、完成してしまえばこちらのもんだ。

「ふっふっふ」

不適な笑みと形容するべきか
突如として笑いだす、腹ペコクイーン

「そういっていられるのも今のうちだぞ」

「どゆこと?」

「たった一言」

「?」

「たった一言で、貴様は私に野菜を食べさせたくなる」

芝居かかった口調でのたまう腹ペコクイーン。

タイマーに目をやる、のこり1分ちょい
ここが正念場だ。

「何をふざけたことを。出来るもんならやってみな」

こちらも妙な口調でクイーンにあわせる。

「ま、貴方のような、腹ペコクイーンには到底無理でしょうけどね?」

「ほほう、いってくれるな?若造」

残り40秒、これならいける!

「どうした?早く言ったらどうだ?」

「ならば覚悟しろ!しかと聞くがよい!」

残り15秒!この勝負もらった!

そう思った瞬間だった。

クイーンは突如、私の肩に手をかけ一言こう呟いたのである。




「最近、油が多いものがキツい…」

「…………」



辺りにタイマーの電子音が鳴り響く。

私は無言でタイマーを止めて
クイーンのためにレタスをちぎるべく
冷蔵庫を開けるのであった。